栄養療法と東洋医学
1週間前に診察させていただいた患者さんのお話。
50代後半の女性の方で、主訴は「とにかく足が冷たい」。
半年前から、腰から下全体が冷えて痛くなって、どうしようもないとのこと。
内科や整形外科などいろいろな科を受診したが良くならず、更年期障害ではないかと言われたそうである。
ほかにも不眠などの不定愁訴がいくつかあったので、私の前のドクターには、更年期障害などによく使われるジアゼパム系の自律神経調整薬を処方されていた。
しかし、それらの薬ではちっとも良くならなかったということだった。
この方の状態は、下半身の冷感を主訴とした自律神経失調症と考えられるが、栄養療法という立場から診ると、このような症状の原因にはいろいろある。
まずタン白質が足りないこと(詳しくはこちら)。そしてビタミンB群の不足。および貧血・または鉄欠乏。
他にも挙げればいろいろあるが、これら栄養素のアンバランスが、こういった病態の原因の主要な部分を占めていると考えられる。
要するに栄養欠乏によりホメオスターシス(生体恒常性)が崩れ、体温調節がうまくいかなくなっているのだ。
こういう状態では冷え性だけでなく、いろいろな不定愁訴を起こしても不思議ではない。
根本治療としては栄養療法・食事療法が必要なのだが時間がかかるので、それらを同時にすすめながら、症状をとることを目的に「苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)」を出してみた。
で、1週間後の今日。
まず患者さんの顔つきが全然違った。血色が良くていかにも調子が良さそうなのである。
腰から下が全部冷たかったのに、膝から下だけになったそうである。
食事もタン白質系のものを中心に、いろいろと食べるように気をつけているとのこと。
とても喜んでいただいた。
こういうのは非常に嬉しい。
いろんな病院をハシゴしたのに治らなかったとか、西洋薬が効を示さない長患いの人などが、漢方薬や栄養療法でスカっと治ってくれると、まさに快感!なのだ。
まさしく「してやったり!」という気持ちになる。
(百発百中とは言いませんけどね…)
ほとんどの慢性疾患には栄養欠乏が関与していると言われている。
特に今回の患者さんのようなな自律神経失調症や不定愁訴症候群、更年期障害、月経前緊張症などは、栄養素のアンバランスが病態に関与していることが非常に多い。
栄養療法と言う視点から見ると、これらの病態の根本的な原因は栄養欠乏にあると考えられるので、本来は栄養療法が根本治療だと考えられるが、栄養療法が効果を発揮するにはある程度時間がかかる。
分子レベルで栄養素を至適濃度に整え、ホメオスターシスを回復するには時間が必要なのである(病態によってはすぐに良くなることもあるが)。
なので、可及的速やかに症状をとるために、漢方薬をうまく使っていくと、症状がとれてとても喜ばれる。
そうしながら、栄養療法によって体の土台を整えていく治療を行っていくと、患者さんは本当に元気になられるのである。しかも若返ってキレイになっちゃうというオマケつき。体の中から健康になっていくのだから、当然である。
こういうことは残念ながら「薬」(西洋薬のこと)ではできない。西洋薬は基本的には対症療法であり、根本治療ではないからだ。
なので、栄養療法と漢方・鍼灸を組み合わせて使いこなしていくというのは、自慢じゃないがとても素晴らしい治療方法だと思っている。
まず健康の基本は、栄養素である。これは間違いない。
そして、それでも起きる症状や、ホルモンや自律神経、経絡などのバランスの乱れには、漢方や鍼灸などの東洋医学が効果的だろう。
西洋医学による薬や手術は、本来はその後に選択すべきものだと私は思う。
薬では健康にはなれないのだ。
日本の医療現場でももっとそういうことに理解があれば、病気が減るのにね。