ロンドンには、PMS専門クリニックがある。

それを知っただけでもちょっとした驚きだったのだが、それだけではなく、なんと英国では、PMSが殺人罪や放火罪における限定責任能力(*註)の理由として、また、他の刑事上および民事上の犯罪における減刑の理由として、受け入れられているそうだ。

(*註:精神遅滞・精神異常などの理由により犯罪者の刑法上の責任を減じること)

キャサリーナ ダルトン, Katharina Dalton, 児玉 憲典
PMS法廷に行く―月経前症候群と女性の犯罪

これを知ったときは、結構驚いた。

日本ではようやくその言葉が知られつつあるPMSが、英国では30年ほども前から社会的に、女性が起こす問題、極端な場合、犯罪を犯す理由のひとつとして、認知されているということだ。

PMSとは、Premenstrual Syndromeの略で、日本語では月経前症候群と言う。

月経のある女性なら、程度の差こそあれ、月経前の体の変化を感じたことがあると思う。

むくみ、便秘、乳房の張り・痛み、下腹部の張り・痛み、だるさ、疲れやすい、眠気などの、身体的な症状から、イライラする、怒りっぽい、キレる、攻撃的になると言う人や、逆に、うつになる、情緒不安定になる、落ち込む、涙もろくなる、マイナス思考になる、やる気がなくなる、集中力や判断力がなくなる、食欲が亢進する、など、様々な精神的な変動を伴う。
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重要なのは、そのような症状が「月経が始まる前に症状が反復してみられ、月経後には症状がみられない」ということだ。

月経後にも症状が存在するのであれば、それはPMSの症状ではない。

症状があっても軽い程度のものなら、あまり病的とはみなされないが、社会生活や家庭生活に支障を来たすほど、強い症状を持つと言う場合も少なくない。

もちろん、PMSのために自制が効かなくなり、犯罪を犯すような人たちは、その中のほんの一部(ダルトン女史によると0.1%)である。

心当たりがある、という方は多いと思うが、その有病率は、報告によってまちまちだ。

10%と言う人から95%と言う人もいる。要するにどの程度から病的とみなすかで違ってくる。

実際には自分の月経周期とその症状の関連性に気付いていない人も多く、自分がPMSだと気付いていない人も多い。

それにしても、この数年ほどで、PMSを訴える人は本当に多くなってきた感がある。

英国では法廷でもその存在が取り沙汰されるほど、その存在が知られているPMSが、なぜ日本では最近になって目立ってきたのだろうか?

日本では英国ほど多くなかったPMSが、実際に増えているのだろうか?

それとも女性の社会進出などを背景に、女性たちが今までは我慢していた症状を、表出するようになってきたのだろうか?

続く。

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