だいぶ前になりますが、故・増永静人先生の「経絡と指圧」という、私が非常に感銘を受けた東洋医学の論説について書いたことがあります。

東洋医学とは何か、西洋医学と何が違うのか、”使う薬が違う”とかいうレベルの話ではなくて、医学全体の概念や人体というものに対する立ち位置などについての根本的な違いについて、深い洞察のもとに書いてある、とても素晴らしい本なのです。

現代医学と東洋医学の違いについてよく言われることは、

現代医学が「木を見て森を見ず」という(傾向のある)医学であるという捉え方に対して、

東洋医学は「森を見る」医学であるという捉え方です。

確かに、学会の発表などを聞きに行くと、「一体これが臨床の何に役に立つの…?」と聞きたくなるほど、「枝葉末節」としか思えないような(ごめんなさい)研究結果を目にすることがあります。

そのような細かい研究が積み重なって医学の進歩があるのでしょうけれど、人間の体を切り刻んで、極限まで拡大して、細かく細かく見ていったとしても、そこに生命の何たるかは見つかりません。

ミクロの目は当然必要なのですが、総体としての人間は近視眼的な視線をもって観るのみでは明らかになりません。

東洋医学は、顕微鏡だのウェスタンブロットだのなかった時代から受け継がれてきた医学ですから、そういうミクロの視点はないのですが、人体をさながら”小宇宙”として捉え、全体の調和を図ることで治療をしていこうという医学なのです。

このような捉え方は、東洋医学に特有な考え方かと思っていたのですが、現代西洋医学のしかも一流の素晴らしい研究者の中に、まさにこれと同じようなことをおっしゃっている方がいたので、とても感銘を受けたのです。

生命とストレス―超分子生物学のための事例

セリエ博士はと知、言わずれた「ストレス学説」を提唱した人物です。

この本には、セリエ博士がどのようにしてストレス学説を発見するに至ったのか、常識や既成概念にとらわれず新たな概念や発見をしていくにはどのような立場が必要なのかなど、講義の内容から抜粋された若い研究者へのメッセージが満載されています。

そしてこの本に、ビタミンCの発見者としてノーベル賞を受賞したアルバート・セント=ジェルジ博士が序文を寄せているのです。

深い感動を覚えたので、その一部を抜粋させていただこうと思います。

~(中略)~

分子生物学の成果が賞賛に値しないと言っているのではない。生命の理解に近づくためなら分子、量子、電子についてもあらゆることを知り、また発見しなければならない。しかし、生体は多くのレベルからなり、分子レベルというのは、そのほんの一領域にすぎないことを忘れてはいけない。そして「生命」といわれるものはすべての機能とすべての反応の総体であるということである。もし私が誰かの頭をピストルで打ち抜いてから、ほんのちょっと傷つけただけだ――しばらくは心臓が鼓動し、筋肉もピクピク動いたし、髪も伸びた――と言ったとしても、罪は免れないだろう。なぜなら、生命は全体にかかわっているからである。この全体の統合レベルはもっとも複雑なものである。そしてまたもっとも困難な研究領域である。生命のすべての魅力と奇妙さがあらわれるのはこのレベルである。それに近づくには、機器の指針などを見つめるばかりでなく、肌と肌の触れ合いをしなければならない。さらに言うならば、生きもののシステムを理解するためにはそれを愛さなければならないということである。またさらに深く直感的理解に達するためには、古くからある二つの道具――目と脳――のほかに、あらゆる感覚を動員しなければならないと言いたい。生命をつかむためには詩人のようであらなければならないとあえて言いたいほどである。

~(中略)~

かの有名なアルバート・セント=ジェルジ先生が、まさに増永先生と同じことをおっしゃっているのです!

真理を追究することに洋の東西は問わない、と認識すると同時に、その姿勢に深く納得せざるを得ませんでした。

さすがビタミンCを発見した方だ…!、と単純な私は一気にジェルジ博士の大ファンになってしまったのでありました。

もちろん本文の内容も、大変示唆に富んだものでありました。

続きは次回。

株式会社HYGEIA