引き続き、PMSの原因について考えてみたい。

PMSは、日本では今までそれほど臨床的に重要視されてこなかった。これは、重症例の絶対数がそれほど多くなかったこと、“死に至る病ではない”ということ、症状に個人差が大きく定量的な調査が難しいこと、西洋医学的な治療法が難しい、などの理由があるためと思われる。

PMSだけでなく、更年期障害や自律神経失調症、妊娠悪阻(つわり)、産後うつ症なども、患者さん本人は大変につらく、社会的に見ても少なくない影響があるにも関わらず、医学的な深い追求はされない傾向にある。

これは現代西洋医学の欠点の一つで、患者のQOLを明らかに下げる病態であるのに、生命に危機を及ぼさず、しかも“ありふれている”病態と言うのは、まったくもって重要視されないのだ。

例えば女性によく見られる貧血などがいい例で、貧血は女性のQOLを激しく下げるもっとも大きな原因であるのにも関わらず、臨床の現場ではよほどの深刻な状態でない限り放置される。医者自身がその重要性を認識していないからだ。

またこれらの病態は、実際に西洋医学的な薬物治療では治療が難しいため、敬遠されやすいということもあるだろう。

これらの病態に共通していることは、すべて「ホメオスターシスの乱れ」の結果、起きている病態であると言うことである。

私たちの体には、ホメオスターシス(生体恒常性)という素晴らしい能力が備わっている。というか、ホメオスターシスが生命そのものであると言ってもいいかもしれない。

医療関係者なら生理学で習っているはずのことだが、ホメオスターシスというのは、「人体におけるある条件を一定の範囲内に保っておく働き」のことである。簡単に言うと、「バランスを保つ力」と言ってもいいだろう。

例えば、体温や血圧、脈拍、発汗量、ヘモグロビンや白血球などの数、生化学的な諸々の血中濃度(カリウムだの鉄だのコレステロールだの)、ホルモン分泌、エネルギー産生、などなど。

人間の生命は、ホメオスターシスという人知を超えた働きによって、星の数ほどもあるこれらの体内環境の微調整が休むことなく精密に行われ、維持されている。

私たちは、無数のホメオスターシスの働きが存在して初めて、存在することができるのである。

言い換えれば、60兆個の細胞が各々の本来の機能を果たしていて、これらのホメオスターシスがその機能を存分に果たし、滞ることなく正常に働いていて、体内のあるとあらゆる条件が理想的な範囲内に収まっていていれば、人間は健康なのである。

ところが、現実にはそうはいかない。様々な理由で、ホメオスターシスの乱れは起きてしまうからだ。

ホメオスターシスの働きを実際につかさどっているのは自律神経とホルモンである。我々が生きていく上で、自律神経とホルモンに悪影響を与える条件は、それこそ数限りなくある。

例えば、ストレスは自律神経に大きな影響を与える。その結果、神経機能、免疫機能、ホルモン分泌、消化吸収機能など、様々な機能に影響を与え、ホメオスターシスが乱れてしまう。その結果様々な症状が起きる。

そして、ホメオスターシスの乱れを起こす最も大きな原因が、実は「栄養欠乏」なのである

あまりにもシンプル過ぎて(?)医学以前の問題だからか、現代人は充分に栄養素が足りていると誤解されているためなのか、医学的にはほとんど無視されているけれど、栄養素の欠乏、もしくはアンバランスが、人体というものの土台を非常に危ういものにしているのである。これは飢えたアフリカ難民においてのみ起きている問題ではない。飽食の現代人にも確実にそれが起きていると言うことが、認識されるべき問題なのある。

当たり前の話だが、私たちの体は私たちが食べたものだけで作られている。当然、自律神経そのものや神経伝達物質、ホルモンの材料も栄養素である。これらの材料、例えばタン白質やビタミンB群などは食事から摂れているつもりで実際には十分摂れていないことが多いし、必要量には個人差があるので、必要栄養所要量というわずかな量を満たしているというレベルでは個人や環境により増大した需要をまかなえていないことがあり、神経伝達物質の産生やホルモン分泌に影響を与える。

同じように貧血の原因も栄養不足である。タン白質や鉄、ビタミンB群など、「血液の材料の不足」のために、多くの女性の貧血は起きている。血液だけでなく、全身の細胞が正常に新陳代謝され、古い細胞が死んで新しく細胞が生まれるためには、全てその材料となる栄養素が必要なのである。材料が充分になければ、細胞がその数と質を保って産生され続けることは困難である。

つまり、老化を含め、臓器の機能低下による失調や病態は、ある一定の割合で「栄養欠乏が原因」なのである

つづく。

株式会社HYGEIA