「貧血ではない」の落とし穴

一般の血液検査で見るのはヘモグロビン(血の濃さ)です。しかし体は、ヘモグロビンを保つために貯蔵鉄(フェリチン)を先に使い切ります。ヘモグロビンが正常でもフェリチンが一桁〜10台、という状態が「隠れ鉄欠乏」です。

東京都内の18〜22歳の女性76人を調べた研究では、ヘモグロビンは正常なのにフェリチンが 20 ng/mL 未満の人が 29人(38%)、貧血まで進んでいた人が 10人でした。隠れ鉄欠乏の人は、疲れやすさ・怒り・緊張の訴えが有意に多くなっていました(Sawada ほか, Biol Trace Elem Res 2014)。

鉄と妊娠しやすさ

米国の看護師健康調査では、妊娠を試みた 18,555人を8年間追い、排卵障害による不妊が 438人に起きました。鉄のサプリメントを使っていた女性では、そのリスクが 0.60倍(95%信頼区間 0.39〜0.92)でした(Chavarro ほか, Obstet Gynecol 2006)。これは観察研究で、鉄を飲めば妊娠できるという証明ではありません。ただ、鉄が足りている状態が妊娠の準備として不利にならないことは示しています。

体外受精の前に鉄を整える意味

採卵・移植の結果に直接効くという証明はありません。当院が重視するのは、妊娠したあとです。妊娠中は胎児と胎盤に鉄を渡すため、貯蔵鉄が少ない状態で妊娠すると、妊娠中の貧血・疲労・産後の回復の遅れにつながります。体外受精で妊娠に至ったあとの体力を、先に作っておくという考え方です。

当院の実例(医師の記録・個人差があります)

不妊で受診した37〜39歳の女性4例は、初診時の貯蔵鉄(フェリチン)が 4.4・4.6・4.6・10.5 ng/mL と一桁〜10台でした。ヘム鉄を中心とした栄養療法で、3か月後には 33.6・30.3・32.1・47.0 に上がり、2か月〜1年で自然妊娠しています(人工授精3回・体外受精2回のあと、体外受精6回目で第一子のあとの第二子、など)。くわしくは 不妊治療改善例(4例・検査値つき)。

鉄の摂り方で気をつけること

  • 鉄は過剰症があります。自己判断で鉄剤やサプリメントを飲まず、血液検査でフェリチンを測ってから、医師が量を決めます。
  • 当院ではヘム鉄(吸収がよく胃に負担の少ない形)を中心に処方します。
  • たんぱく質が足りないと、鉄を運ぶ・貯める仕組みが働きません。鉄とたんぱく質は一緒に整えます。