栄養療法を行う上で、重要な栄養素は数あるが、その中でも重要度の高いものがビタミンCだ。

ビタミンCは、食品の抗酸化剤としてさまざまな食品の添加物としても使われているし、化粧品やサプリメントとしてもよく利用されているので、私たちにとって最もなじみのあるビタミンと言えるだろう。

でもその知名度の割には、実態があまりよく知られていない栄養素No.1!かもしれない。

ビタミンC(一般名L-アスコルビン酸)は1753年、James Lind(以下敬称略)というイギリスの海軍医により、壊血病を予防する因子として発見された。

後にハンガリーのAlbert Szent-GyorgyiがビタミンCの分離に成功し、1937年にノーベル生理医学賞を、また、化学構造の決定に成功した英国のHaworth、スイスのKarrerが同年にノーベル化学賞を受賞している。

しかし、ビタミンCの持つ還元作用、コラーゲン生成作用については明らかになったものの、その後の研究は1960年までほぼ停止状態だったらしい。

1960年代に入って、米国のIrwin Stoneが、「ヒトは遺伝的な低アスコルビン酸血症である」と述べ、ビタミンCをよりそれまで栄養学者が唱えていた量よりもはるかに多く摂取することで得られるメリットについて著した。

そしてそれが20世紀最大の科学者と言われるLinus C. Pauling(ライナス・ポーリング)を、ビタミンCの世界へと引き込んだのだ。

それは、アスコルビン酸というシンプルな化合物が持つミラクルな作用を、人類が広く知ることになる幕開けとも言えるものだった。

ビタミンCとは、γ-ラクトン環とエンジオール基を持つ化合物である。

ビタミンCの特徴である強い還元作用は、この構造から来ている。

線で囲んだ部分がエンジオール基で、この部分が水素供与体として働く。

この構造ゆえにOHのH(水素)が引き抜かれやすいという特徴があり、電子を他の物質に与え、還元し(抗酸化)、自らは酸化される。

酸化されたビタミンCの電子はエンジオール基とラクトン環に広がって存在するため、ラジカルとしては安定し、連鎖的な酸化反応を引き起こすことはない。また、ビタミンCを再生する還元系は生体内に多数存在し、効率よく再利用される仕組みを持っている。

つまりビタミンCは、体内における水溶性の抗酸化成分として、非常に重要な役割を有している物質なのである。

ビタミンCの作用は、「抗酸化剤としての作用」と「水酸化酵素の補酵素としての作用」の二つに大別される。本質的にはこの両者はともに、ビタミンCの構造がもつ強力な還元作用に由来している。

ビタミンCについて述べる時、ライナス・ポーリング博士について述べないわけにはいかない。

ポーリング博士は分子生物学の基礎となっているタン白質の立体構造を解明した科学者であり、化学結合の研究でノーベル化学賞を、核廃絶運動でノーベル平和賞を受賞したという、ノーベル賞を二度受賞した歴史上ただ一人の人物である。

博士は医師ではなかったが、鎌状赤血球貧血が、ヘモグロビン分子の一本のポリペプチド鎖のアミノ酸のうちの、たった一個のアミノ酸の異常によって起きていることを解明したことでも知られている。

優れた化学者であり物理学者でもあったポーリング博士は、人体や疾患に対しても独特の鋭い視点を持っていた。

彼は多くの疾患を「分子の異常」として捉え、その分子の異常を改善することによって治療効果が得られると考えた。これが分子栄養学の始まりである。

彼はその晩年を、ビタミンCをはじめとする栄養素の“大量”投与(分子栄養学の立場からすると“至適量”の投与)により得られる、ガンの抑制、感染症の予防、免疫力増強、老化予防、心臓疾患の予防、白内障の予防などの様々な効果についての研究に費やし、膨大なデータを積み重ねていった。

しかし、天才ゆえに世間の一般常識より2歩も3歩も先を行っていたポーリング博士は、ほかに類を見ないほど偉大な科学者であったにもかかわらず、その先見性ゆえに、固定概念にとらわれた医学界からは受け入れられず、(不当に)糾弾され、爪はじきにされてしまった。

放射能が人体に及ぼす悪影響、化学療法による免疫力の低下など、今となっては常識とされていることも、博士が最初にそれらを提唱した時には、医学界の重鎮たちはこぞって否定し、博士に非難の雨アラレを降らせたのである。

博士の死後10年以上たった今、その業績は再評価されつつある。

ポーリング博士について書かれた文章を読むたびに、あまりにもすごすぎて、「この人は宇宙人だったんじゃないだろうか?」と思う私だが、ビタミンCはその博士をして、こういわしめたのである。

「エンジオール基が世界を救う」

と。

ビタミンCが有する様々な効果について、おいおい書いていきたいと思うが、人体に有用な効果を発揮するために重要なのは、ビタミンCの「量」である。

かつての栄養学が目指してきた「欠乏症を防ぐ」という消極的な利用法を越えて、分子栄養学が目指しているのは、生体機能を高めるための「より進歩した」栄養素の利用法である。

至適量(従来の栄養学の所要量に比べると大量であるが、生体機能を高めるのに必要な量)のビタミンCを摂取することにより人体が浴する恩恵を理解することは、栄養療法を理解することに役立つと思う。

株式会社HYGEIA