PMSの患者様(つづき)
前回のPMSの患者様の話の続きです。
このような患者様のケースをお話しすると、「相当食事が悪かったんじゃないの!?」とお思いの方がいらっしゃるかもしれません。
それが、決してそんなことはないのです。
この患者様にはとてもお料理上手なお母様がいらっしゃり、和食中心のとても素晴らしいお食事を(うらやましいくらいです!)毎日きちんとしていらっしゃったのです。
たとえば・・・
(朝食)
ごはん、味噌汁、納豆、しらす、かつお節、梅干など
(昼食)
休職してからは食べないことが多かった
(夕食)
寿司、煮物(がんもどき・厚揚げ・里芋・人参など)
または
鮎の塩焼き、ちらし寿司、豆腐
または
刺身、もずく、さつま揚げ、トマト、レタス、ごはん
など
量はどうなのかという問題もありますし、私から見ればタン白質が全然足りていないのですが、常識的に考えれば大変きちんとした食事をしていらっしゃると思います。
しかし、一見理想的なこのような食事をなさっていても、栄養欠乏は起こりうる、ということです。
そしてそうなってしまう原因のひとつには、「妊娠・出産」があります。
この方は20年ほど前に出産をしていらっしゃり、その前は体力もあってものすごく元気だったのが、出産をしてから強い体力の衰えを感じたそうです。
胎児を育てる、ということは女性にとって栄養欠乏を来たす大きな原因になります。
母体は胎児に自分の体を犠牲にしてまでも、栄養を与えます。
母の愛、ということもできますが、逆に言えば、胎児は母体の栄養を容赦なく「奪っていく」とも言えます。
ともかく妊娠するということは、自分の体を壊してまで赤ちゃんに栄養を与えてしまう、
「究極の異化亢進状態」
と言えるのです。
この時に、自分の体はもちろん、赤ちゃんの体を作るための栄養素を十分摂っていなければ、母体はどんどん磨り減っていくことになるので、栄養欠乏を来たすこと必至です。
そして何人も子どもを産めば、それが積み重なっていくのです。
また、それでも赤ちゃんに十分な栄養素をあげられるのなら報われるというものですが、赤ちゃんにあげる栄養素も不足していたとしたら、赤ちゃんの発育や健康にも悪影響を及ぼすことになります。
自分の体を維持する分に加え、赤ちゃんを育てるのに必要な量の栄養素をちゃんと摂れていたならば、当然こんなことは起こりません。
しかし、妊婦さんを拝見していると、それができているかというと、できている方はほとんどいません。
自分ひとりの体に必要な栄養素すら摂れていないのに、赤ちゃんの分まで摂るということは実際にはかなり困難です。
そもそも、妊娠しようがしまいが、若い女性の方のほとんどが、栄養のことをあまり気にかけていないように思います。
こういう状態では、妊娠中のトラブル(貧血など)や、産後のうつや体調不良、更年期障害様の症状、体型の崩れ、産後太りなどを引き起こします。
これらのトラブルは、「妊娠出産する以上、仕方ない」というような風潮がありますが、栄養素を消費する以上に摂ってさえいれば、「決して起こらない」のです。
残念ながら、妊娠・出産を含めいろいろな理由で、一度栄養欠乏に陥ってしまったら、食事でそれを改善しようと思ってもかなり困難です。
だから、栄養療法が必要になるのです。
悲しいことに、一般の医療関係者には「栄養欠乏」の概念がありませんので、その方の症状がもしうつ症状なら抗うつ剤、不眠であれば睡眠薬、痛みであれば鎮痛剤と、対症療法をするしかありません。
それで症状が良くなるならラッキーですが、それでは決して根本的な解決にはならないのです。
そしてもうひとつ、この患者様はとても嬉しいことをおっしゃってくださいました。
患者様が当院に受診なさって、当院の治療方法・栄養療法等について説明を受けただけでも、とても楽になったと言うのです。
おそらくそれまでは「何をしても良くならない」という不安や焦りなどがあり、そのような精神的なストレスは症状に拍車を掛けていたことでしょう。
しかし、栄養療法と言う治療法があり、それで良くなる可能性がある、と思っただけで、精神的に楽になり、症状が軽減したと言うことが考えられます。
それだけで治ったわけではもちろんありませんが、私たちは強い自信を持って栄養療法を行っています。
もちろん、100%良くなります!と言うことはできませんし、当院にいらっしゃるような患者様は難治症例の場合が多いので、困難なことが多いことも確かです。
しかし、現代医学でいかんともしがたい病態が栄養療法でよくなることはとても多いのです。
「治療者の自信」というのは患者様にとってもプラスに働きます。
治療する側が、「この治療で本当にいいのだろうか?」「本当に患者様が良くなってくれるのだろうか?」と、自信のない状態では、患者様も不安になります。
このような症例を沢山診せていただいているから、私たちも、頑張って栄養療法をしていただけば良くなりますよ…!!と、自信を持って患者様を勇気づけることができるのです。